「セトノベルティ」の盛衰

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岡崎市美術博物館の「マイセン動物園展」を見た後、「愛知県でも陶磁器の人形を製造・輸出していた」という記憶が蘇り、ネットで検索していたら「セトノベルティ 匠ネットワーク」というHPがヒットし、セトノベルティの特徴・歴史などを知ることができました。URL=https://www.setonovelty.jp/setonovelty.html

・セトノベルティの特徴

精巧な形状 / 繊細な絵付・装飾 / 多彩な製品ラインナップ / 小型から大型製品まで生産可能 / 多様な素材(陶器・白雲・半磁器・ボーンチャイナ・炻器・磁器など) / マットからクリアまで可能な仕上げ / 石膏型による成形 / 分業による生産体制(原型製作・石膏型製作・成形・絵付・焼成など)

・セトノベルティの歴史(抜粋)

明治時代   石膏型製法の研究や、陶彫技術の確立

          明治6(1873)年 ウィーンで開催された万国博覧会に出展

          招き猫・稲荷狐・福助・水入れ人形など

陶製の浮き金魚=ポン割で製作された最初のセトノベルティ 

大正時代   第一次世界大戦時にドイツ製に代わり瀬戸製ビスク人形がヒット

昭和時代   複雑な形状を有する瀬戸製ドレスデン人形が完成

          戦争の影響で1943年後半、セトノベルティの生産は一時途絶

18インチ(約45cm)の高さを持つ大形人形の製造も可能になる

           ヨーロッパのノベルティの模倣から独自の商品開発へ移行

1960年代には、瀬戸のノベルティメーカーは300社を超える

1980年代以降、円高、新素材の登場等、徐々に生産数が少なくなる

 上記の「特徴」に書かれた「石膏型による成形」は「マイセン動物園展」の動画で紹介されていた製法です。また、「歴史」に書かれた「ドレスデン人形」は、「マイセン動物園展」で出品されたような最高級品であるマイセン製白磁器の人形を指しているそうです。

 マイセン磁器は中国や日本の磁器を研究して製造されたものですが、セトノベルティは逆に、マイセンの人形を研究(模倣から独自の商品開発へ移行)して製造したものだったのですね。

◎展覧会で紹介された「セトノベルティ」の概要

展覧会について調べると、名古屋市の横山美術館で2018年8月4日~12月2日の日程で「企画展 愛されたセト・ノベルティ展」が開催され、兵庫県丹波篠山市の兵庫陶芸美術館でも2019年3月16日~6月2日の日程で「特別展 瀬戸ノベルティの魅力―世界に愛されたやきものたち」が開催されていたことが分かりました。

横山美術館のプレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000027559.html)には「セト・ノベルティは100年以上に渡って瀬戸で制作が続けられ、かつては輸出陶磁器の花形として多くの作品が海外に渡り世界中で愛されました。(略)しかし、1980年代以降の円高によって衰退を余儀なくされ、その技術が失われつつあるのが現状です」と、紹介されています。

兵庫県陶芸美術館のHP(https://www.mcart.jp/exhibition/e3004/)では、さらに詳しく「ノベルティが本格的に作られるようになったのは、大正時代のことです。大正3(1914)年に第一次世界大戦が起こり、当時ノベルティが人気を博していたアメリカでは、最大のノベルティ生産国であるドイツからの輸入が途絶えました。代わりに白羽の矢が立ったのが瀬戸で、石膏の型によって作られた輸出用ノベルティの生産が始まりました。その後は、欧米をはじめとした世界中に多数輸出され、戦後には最盛期を迎えました」と、紹介しています。

◎「ノベルティ・こども創造館」について

 さらに、セトノベルティを展示している施設を調べると、昭和後期までノベルティを製造していた民間の工場を改修して、平成15年8月に「ノベルティ・こども創造館」が開館していることが分かりました。「ノベルティ・こども創造館」のURLは、http://www.city.seto.aichi.jp/docs/2010111000080/ で、所在地は瀬戸市泉町74番地の1です。まだ、行ったことはありませんが、機会があれば訪ねてみたいですね。

Ron.

<参考>

兵庫陶芸美術館のHPから

上段左 《二人のエンジェル》 1964年 丸山陶器株式会社 横山美術館所蔵

上段右 《マドモアゼル》 1996年 テーケー名古屋人形製陶株式会社 愛知県陶磁美術館所蔵(テーケー名古屋人形製陶株式会社寄贈)

中央 《葡萄を摘むエンジェル付き水差》(1対) 1957年以降 丸山陶器株式会社 横山美術館所蔵

下段左 《エンゲージ》 1995年頃  丸山陶器株式会社 横山美術館所蔵

下段右 《アン王女》 1991年 テーケー名古屋人形製陶株式会社 瀬戸蔵ミュージアム所蔵

展覧会見てある記 「マイセン動物園展」 岡崎市美術博物館

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7月28日(火)から30日(木)まで中日新聞・県内版に、岡崎市美術博物館で開催中の「マイセン動物園展」の紹介記事が連載されていたので、早速行ってきました。平日ながら、恩賜池に臨む駐車場は満車に近い状態。県内の新型コロナウイルス新規感染者が急増しているため「展覧会場は3密状態か?」と怖くなりました。しかし、よく見ると、ノルディック・ウォーキング用のスティックを持参するなど、運動目的の人が何人もいたので少し安心しました。

動物と神話の人物を組み合わせた作品が多数

「第1章 神話と寓話の中の動物」には、神話に出てくる神や天使、鳥、馬、ライオンなどを組み合わせた作品が並んでいます。白磁の滑らかな肌、頬の薄紅色、色鮮やかな衣服など、どこをとっても「どうやって作ったのだろう?」と思われる美しい作品の数々でした。作品リストの制作年には「1820-1920年頃」と書いてあります。原型製作者であるヨハン・ヨアヒム・ケンドラーの生没年は1706-1775年ですから、彼の原型を元に、後日制作したということでしょうね。

会場の最後「映像コーナー」で上映している動画によれば、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーは彫刻家。マイセン磁器の発明者ヨハン・フリードリッヒ・ベットガー(1682-1719)、絵付師のヨハン・グレゴリウス・ヘロルト(1696-1775)と並び、マイセン磁器を牽引した人物です。マイセン磁器の特色は、石膏の原型で型取りした複数の部材を貼り合わせて複雑なフォルムを造形するところにあります。部品を石膏の型から取り出し余分な所を削って貼り合わせる手の動きを見て「展示されていた作品はどれも、長時間にわたる精緻な作業の結晶だ」と感じました。

繊細で豪華絢爛な器の数々

スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺

「第2章 器に表された動物」の圧巻は《スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥透かし壺》。展覧会のチラシの図版にも使われていますが、壺の全面に石膏原型で型取りした小さな花を貼り付けた上に、鳥や昆虫、カエル、蔦のような植物を貼り付け、しかも壺の下部には透かし彫りが施され、中に黄色い鳥が居るという、気の遠くなるような手間をかけて作られた壺です。

柔らかなフォルムの動物たち

二匹の猫

「第3章 アールヌーヴォーの動物」になると、動物の雰囲気が変わってきます。ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーはバロック期の彫刻家ですが、第3章は「アールヌーヴォー」様式の作品。第1章、第2章の作品は、権勢を誇るためのものですが、第3章は身近に置いて楽しむもの。制作目的が全く違うのですね。《二匹の猫》は、可愛かったですよ。

常滑焼のような炻器(せっき)の動物も

「第4章 マックス・エッサーの動物」には《カワウソ》など、ベットガー炻器で制作した動物やマスクが並んでいます。炻器は釉薬をかけず高温で焼成した陶器で、日本の常滑焼や備前焼にあたるものです。土の風合いを生かした、素朴で味わいのある作品でした。

最後に

ノルディック・ウォーキングに向かう人の会話に耳を澄ますと「ウォーキングが終わったら、展覧会を見て帰りましょうか」という声が聞こえてきました。コロナ禍で不安の増す毎日ですが「マイセン動物園展」は一服の清涼剤になりました。会期終了予定は9月13日(日)です。

Ron.