「佐藤玄々展」ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

今回の目的地は碧南市藤井達吉現代美術館でした。参加者17名で、現在開催中の碧南市制70周年記念事業 開館10周年記念「生誕130年 佐藤玄々(朝山)展」(以下「本展」)を鑑賞しました。展覧会の案内は特別主任学芸員の北川智昭さん(以下「北川さん」)。ギャラリートーク形式の解説を聴いた後は自由観覧で、楽しいひと時を過ごすことができました。北川さん、ありがとうございました。以下は、北川さんによるギャラリートークの概要で(注)は私の補足です。

解説してくださった特別主任学芸員の北川智昭さん、ありがとうございます

解説してくださった特別主任学芸員の北川智昭さん、ありがとうございます


◆佐藤玄々について
江戸時代まで、わが国に「彫刻」という言葉はありませんでした。「彫刻」という言葉は西洋から近代彫刻が紹介された後、明治30年代から使われるようになった言葉です。近代日本の彫刻家としては高村光雲(1852-1934)や平櫛田中(ひらくしでんちゅう:1872-1979)が有名ですが、佐藤玄々(1888-1963)は平櫛田中の10歳ほど年下。「彫刻」という言葉が使われるようになってからの作家で、日本美術院・彫塑部の最初のメンバーです。
佐藤玄々は「日本精神を重視する」という日本美術院の方針に忠実にやろうとした人です。「日本精神」といえば神道ですが、神道では神の姿はみえないものであり、「神の像」はありませんでした。(注:北川さんの言葉どおり、神社には「神さま」ではなく、神が宿る「依り代」(よりしろ)=鏡・玉・剣・神木などを祀っていることが多いですね)佐藤玄々は「ご神体」を作ろうとした人で、日本橋三越本店にある個性的な作品《天女(まごころ)像》も「ご神体」です。
佐藤玄々は1922年(大正11)から約2年間、フランスに留学。その後、東京にアトリエを構えて多くの作品を制作しましたが、空襲でアトリエ・作品ともに焼失。戦後は京都・妙心寺の塔頭にアトリエを構えて作品を制作。亡くなったのも京都です。

◆佐藤玄々のデビュー作《永遠の道(問答)》について(Ⅱ.大正期 留学まで)
一本の木から彫り出した佐藤玄々のデビュー作《永遠の道(問答)》は不思議な作品です。座っている釈迦が立ち姿の婆羅門と対面しているというものですが、二人が異常に接近しています。(注:釈迦の右脚と婆羅門の左足との隙間は紙一枚ほどしかありません)二人の人間が理解しあうためには、お互いの間に一定の距離が必要です。しかし、この作品では二人が接近しすぎて「理解しあうために必要な一定の距離」を壊しています。
また、二人は目線を合わせていません。お互いに、どこを見ているかわかりません。「視線を合わせていない」という点では、この現代美術の作品と同じです。(注:北川さんは、展覧会のチラシを見せてくれました)これは、豊橋市美術博物館で2月16日から3月24日まで開催している「美術のみかた自由自在」で展示しているロレッタ・ラックス《アイルランドの少女たち》です。コンピューターグラフィックスで描いた二人の少女の絵ですが、隣り合っているのに視線を合わせず、別々の方向を向いています。これは「近くにいるのに、お互い、遠くの誰かの方を向いている」という現代のコミュニケーションのあり方を表現した作品です。
皆さんは展示ケース越しに見ているのであまり感じないと思いますが、この作品を買った人は感じる所があって「春日大社でお祓いを受けた」そうです。

◆《筍》について(Ⅲ.昭和初期)
本展では《筍》という題名の作品を2点展示しています。「超絶技巧」で有名な安藤碌山の作品にも象牙を彫った本物そっくりの「筍」がありますが、佐藤玄々の作品は超絶技巧を前面に出しておらず、彼の「問題意識」を感じます。2点のうち1点(注:作品番号45)は筍の根元を薄く緑に彩色しているため、自然の筍に宿る生命力を感じます。

◆《牝猫》について(Ⅲ.昭和初期)
この作品、一見するとブロンズに見えますが実は木彫です。佐藤玄々はフランス留学中にルーブル美術館でエジプト彫刻を見ており、この作品はそこで見たエジプト彫刻をもとにしています。この作品で、佐藤玄々は猫の首を後ろに向け、猫に動きを持たせています。

◆《神狗(かみこま)》について(Ⅳ.昭和戦中戦後)
これは熱田神宮所蔵のご神体です。一木造りですが、顔の部分だけは嵌め込みです。隣の大きな《神狗》は試作品で、この小さな《神狗》のほうが完成品です。晩年の佐藤玄々は、小さな作品を作るようになりました。なお、狗犬は「戦いの前に生贄(いけにえ)にされた犬」という話もあります。

◆《麝香猫(じゃこうねこ)》について(Ⅴ.天女(まごころ)像)
木彫ですが、顔の周りの毛にはふわふわ感があります。武者小路実篤はこの《麝香猫》を絶賛していました。

◆《聖大黒天》《大黒天像》について(Ⅴ.天女(まごころ)像)
サイズは小さいですが、とても手の込んだ豪華絢爛な作品です。彫刻・彩色は佐藤玄々の手によるものですが、截金(きりがね=金箔を細長く切って模様を作る技術)は他の職人に任せたのではないかと思います。

◆《天女(まごころ)像》について(Ⅴ.天女(まごころ)像)
日本橋三越本店の《天女(まごころ)像》の注文を受けたとき、佐藤玄々は10メートルを超えるようなサイズのものは意図していませんでしたが、制作を進めるうちに巨大なサイズになってしまいました。《天女(まごころ)像》は、大きすぎて東京から運搬することはできないので本展では3D映像で見ていただきますが、お手元のチラシのように、3月6日(水)から12日(火)まで日本橋三越本店 本館1階に「佐藤玄々展」が巡回しますので、よろしければ《天女(まごころ)像》の実物と併せてご覧ください。
佐藤玄々は「天才」とよばれた彫刻家です。主要な作品が空襲で焼失したこともあって忘れられた存在でしたが、最近、再び評価されるようになってきました。

◆最後に
ギャラリートークの最後、北川さんに「次の展覧会のテーマは何ですか」と尋ねたところ、「4月27日から6月9日まで北大路魯山人展を開催します。名古屋・八事の八勝館さんのご協力もあります」とのご返事でした。次回の展覧会も楽しみですね。
また、北川さんからいただいた佐藤玄々展のチラシをみて「日本橋三越本店の《天女(まごころ)像》を見たい」と言った参加者が何人もいました。
北川さんから紹介のあった豊橋市美術博物館「美術のみかた自由自在」のチラシを見たところ、「美術のみかた自由自在」には「平成30年度独立行政法人国立美術館巡回展 国立国際美術館コレクション」という副題がついており、国立国際美術館のコレクションのうち、セザンヌ、ピカソを始めゲルハルト・リヒター、奈良美智など45作家、55点を紹介する展覧会のようです。「みること」をテーマに「イメージと物質」「表層と深層」「可視と不可視」という3つの切り口で構成しています。こちらも「今度、見にいてみようかな」という参加者が何人もいました。
                            Ron.

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