中村功新作展を見て

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

 八丁堀のヒノギャラリーで”中村功新作展”を見た。抽象画を見ていると、時々不思議に思うのだが、制作中の作家は画面の中で上下左右の感覚をどのように意識しているのだろう。ギャラリースタッフに聞いても、これといった答えがなく、もし機会があれば、作家に聞いてみたいと思っていた。

 中村氏の場合、浮かぶように、漂うように、重力から自由になろうと意識して描いているそうだ。居合わせた観客の会話を聞いていると「緑の部分は水中の水草。その上を橙が手前に浮かびあがってくるようだ。」とか、「緑と青がおとなしく画面の向こう側に沈んでいくみたい。」というような声が聞こえてきた。

 確かにフワフワとした水草の動きや、風の吹く草原を連想させる作品なのだが、しばらく見ていると、橙の部分が鋭く画面から突き出してくるように見えてきた。もっと具体的に言えば、橙の部分が血のついた刃物のように見え、無数の刃物でぐるりと四方を取り囲まれた緊張感を感じた。歓談していた他の観客の方はどうだったのだろう?

 カラフルかつ、力強い筆遣いなので、ついつい引き込まれ、いつの間にか無意識下で、ざわざわとした違和感を刺激してくる作品たち。その中で気に入ったのが、黄と緑の地に紫を散らせた小さめの作品。もしかすると、この作品は今回の展覧会の異端なのかもしれないが、他の作品より穏やかで、緊張せずに見ていられた。

中村功新作展
会期:2018年11月17日まで
ヒノギャラリー

杉山 博之

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