モネ、それからの100年

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:blogmember

4月25日から7月1日まで名古屋市美術館で開催中の「モネ、それからの100年」(以下「本展」)に行ってきました。

◆名古屋市美術館・第4回目のモネ展、切り口は「現代美術の生みの親」
会場に入ると大きなパネルに「つまり、モネは印象派ではなくあらゆる現代美術の生みの親ではないのか アンドレ・マッソン 1975年のインタヴュー」という文字。正面にはモネ《ヴィレの風景》(1886)と丸山直文《puddle in the woods 5》(2010)が並んでいます。
パッと見は2枚の抽象画ですが、しばらく目を凝らしていると、どちらも木々に囲まれた水辺の風景だと分かりました。「2010年の現代美術は、1886年の印象派の絵に触発されて描かれたのだよ。」と、語りかけてくる展示です。
キュレーターの意図が分かり、印象派の絵画と現代美術が共鳴して、頭の中で何かがはじけたような気持ちになりました。
名古屋市美術館・第4回目のモネ展は、「モネと現代美術の作品に、キュレーターの意図も響き合って、二度も三度も楽しめる展覧会」でした。

◆睡蓮のマークがついた「子ども向け?」の作品解説が秀逸
本展で目を惹くのは睡蓮のマークがついた作品解説です。「中学生以下無料」の展覧会ですから、「子ども向け?」に書き下ろした解説でしょうか。これが、いいんですよ。
例えば、モネ《海辺の船》(1881)の解説、タイトルは「砂浜の色に注目!」。確かに、モネは赤、青、緑、黄など様々な色の絵の具を使っていますね。
デ・クーニング《水》(1970)では「絵の具のかすれに注目!」、ルイ・カーヌ《彩られた空気》(2008)では「色の影に注目!」など、「余計なお世話」ではなく、鑑賞の勘所を教えてくれる有難い解説です。

◆章立ては四つ
 展示は4章。各章のタイトルは、Ⅰ.新しい絵画へ-立ちあがる色彩と筆触、Ⅱ.形なきものへの眼差し-光、大気、水、Ⅲ.モネへのオマージュ-さまざまな「引用」のかたち、Ⅳ.フレームを越えて-拡張するイメージと空間、です。
 Ⅱ.では、マーク・ロスコ《ボトル・グリーンと深い赤》(1958)・《赤の中の黒》(1958)やゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(CR845-5)》・《アブストラクト・ペインティング(CR845-8)》のように今までなら戸惑いを覚える作品でも、モネ《チャリング・クロス橋》(1899)・《テムズ川のチャリング・クロス橋》(1899)等を見た後では、「これもありだな」と受け入れることが出来たという、不思議な体験をしました。
 Ⅲ.は「積みわら」と「睡蓮」へのオマージュ。「睡蓮」は、Ⅳ.にも作品があります。なかでも福田美蘭《睡蓮の池》は夜の展望レストランを描いた作品なのですが、作品の前に佇んでいると、テーブルが睡蓮の葉に、都会の夜景が水面に見えくるのが不思議です。鈴木理策の写真《水鏡14、WM-77》・《水鏡14、WM-79》にも見入ってしまいました。

◆これって、「それからの100年」の例外?キュレーターの意図は?
 本展のチラシには、「それからの100年」という展覧会名について、次の文章が書かれています。
「モネが現在パリのオランジュリー美術館の壁画を飾っている睡蓮の大作に取りかかるのは、ちょうど100年ほど前のことです。画家が没した翌年の1927年にこの睡蓮の壁画が公開された時、人々の反応は今では考えられないほど冷淡なものでした。それから20年余、あまりに時代に先んじていたモネの斬新な絵画表現は次第に理解者を増やし、今ではマッソンの言葉通り、現代美術の出発点として位置付けられています。戦後アメリカの抽象表現主義の作家たちはいうに及ばず、21世紀の今を生きる作家たちにとっても、モネは尽きることのない創造の泉として生き続けているのです。」
 この文章のとおり、本展で展示されているモネ以外の作品は、ほとんどが第2次世界大戦後の制作。作家も20世紀の生まれです。ただし、例外が二人います。アメリカの写真家アルフレッド・スティーグリッツ(1864-1946)とエドワード・スタイケン(1879-1973)。作品の制作年も1892年から1933年。この期間は、モネが睡蓮の制作に取り組んでいた時期を含んでいる「同時代」であり、「それからの100年」には入りません。
 作品の解説にはスティーグリッツとスタイケンがモネの作品に関心を持っていたことが書いてあるので、二人にとってモネが「創造の泉」だったことはわかりました。スティーグリッツの写真には「大気」が、スタイケンの写真には「水」が写っており、「Ⅱ」のタイトルに合っています。また、歴史的な価値もある「いい写真」です。とはいえ、「それからの100年」に入らない、モネの生きた時代に重なる作家の作品をあえて展示したキュレーターの意図は何でしょうか?それを考えるのも本展の楽しみのひとつです。

◆「モネ、それからの100年」と「ボストン美術館の至宝展」のスタンプラリーも
 会場の1階から2階への階段を上がるとスタンプラリーの用紙が置いてあります。名古屋市美術館と名古屋ボストン美術館をめぐり、スタンプを押して応募すると抽選で各館20名にプレゼントが当たるとのこと。応募期間は5月24日(木)まで。
名古屋市美術館協力会(以下、「協力会」)会員向けの「ボストン美術館の至宝展」ミニツアー(5月20日(日)午前9時45分までに名古屋ボストン美術館へ集合)に参加すれば、ギリギリですが締め切りに間に合いますね。

◆最後に
 マンネリを打破するための「モネと現代美術を組み合わせる」という冒険、私の中では「成功」です。キュレーターさんに「あっぱれ」を差し上げます。
 モネも現代美術も見ごたえのある作品が展示されているので、お勧めです。

なお、5月13日(日)17時から協力会会員向けの「モネ、それからの100年」ギャラリートークが開催されますので、お知らせします。

Ron.

フリーダ・カーロ出演の映画『リメンバー・ミー』

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◆「コレクション解析学」で配布された映画のチラシ
 3月25日に名古屋市美術館美術講座「コレクション解析学」(以下、「講座」)が開催されました。講師は中村暁子学芸員(以下、「中村さん」)。取り上げた作品はマリア・イスキエルド《生きている静物》1947年です。私が会場に行くと、受付で講座の資料と一緒に映画『リメンバー・ミー』のチラシが手渡されました。
講座が始まると中村さんは作品解説の前に、名古屋市国際交流課の伊藤さんを紹介。伊藤さんの話では「2018年は名古屋市とメキシコ市の姉妹都市提携40周年に当たる。映画『リメンバー・ミー』はメキシコが舞台の長編アニメーション。劇中にフリーダ・カーロ(Frida Kahlo 以下、「フリーダ」)が登場するので、皆さんにお配りした。」とのこと。3月30日には白川公園に設置するモニュメント《メキシコの翼》の除幕式が開催されるという話もありました。

◆映画『リメンバー・ミー』のこと
「フリーダが出演する」というので、早速映画館へ。春休みなので、子ども連れで一杯でした。映画の原題は ”Coco” 、主人公の少年ミゲル(Miguel Rivera)の「ひいおばあちゃん」の名前です。ミゲルは音楽好きですが、ミゲルの家族・リヴェラ家では「音楽禁止」。(理由は劇中で明らかになります。)家族や友人が集い、ご先祖様に思いを馳せて語り合う11月1日から2日までの「死者の日」の出来事が描かれます。
「死者の日」と言っても、そこはメキシコですから陽気でカラフル。ご先祖様に供えられる鮮やかなオレンジ色の花=メキシカン・マリー・ゴールドが画面いっぱいに広がります。
お話のテンポが良く、主題歌・劇中歌に体が震えます。今年3月に米国アカデミー賞の長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門で賞を獲得した理由が良くわかりました。

◆フリーダの出番とフリーダゆかりの歌、犬、名字
フリーダは、どこでも顔パスで通してもらえる有名人として、本人役で重要な場面に登場。特に、サンライズ・コンサートには、フリーダのそっくりさんが何十人(リヴェラ家の御一行様が紛れ込んでいます)も出演。「死者の国」ですからフリーダもガイコツ。でも、原色の衣装に身を包み、トレードマークの眉毛は健在。とてもチャーミングでした。
映画にはフリーダゆかりの歌、犬、名字も登場。歌の名は「ラ・ジョローナ」(La Llorona=泣き女)。フリーダのお気に入りで映画「Frida」の挿入歌として使われました。『リメンバー・ミー』の初めの方でマリアッチの楽士が歌うほか、重要な場面で主人公の高祖母(おばあちゃんのおばあちゃん)ママ・イメルダ(Mamá Imelda)が歌います。犬はメキシカン・ヘアレス・ドッグ(通称はショロ=Xolo、以下「ショロ」)のダンテ(Dante)。フリーダの飼い犬もショロ。ショロを描いたフリーダの絵やショロと一緒に写っているフリーダの写真がネットで検索できます。フリーダは映画に登場する場面で、ダンテに向かって「迷える魂を導くガイド犬」と、声をかけていましたね。最後に、名字ですが、ミゲルの名字はリヴェラ(Rivera)。もうお分かりですね、フリーダの夫ディエゴ・リヴェラ(Diego Rivera)と同じ名字です。

◆最後に
 子どもだけでなく、大人も十分楽しめる映画でした。
Ron. 投稿:2018.03.29