ボストン美術館の至宝展

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2月18日から7月1日まで名古屋ボストン美術館で開催中の「ボストン美術館の至宝展」(以下「本展」)に行ってきました。文字どおり、古代エジプトから現代までの4500年間に東洋、西洋で制作された数々の至宝を集めた展覧会でした。それだけでなく、収集者の写真、経歴などの紹介もあります。展覧会の概要は以下のとおり。先ず、3階から。
◆古代エジプト美術
展示品は《メインカウラー王頭部》(紀元前2490-2472)から《人間と雄羊と頭部型装飾の首飾り》(紀元前270-50)まで、時代の幅は2500年!もあります。出土地も、カイロ近郊のギザからヌビエ(スーダン)まで。古代エジプトが支配した地域の広さを再認識しました。また、後日、「ヌビエ人がエジプトを支配した時代があった」ということも知りました。
なお、《メインカウラー王頭部》の材質はトラバーチン。辞書には「緻密・硬質で縞状構造をもつ石灰石。水に溶けている炭酸カルシウムが沈殿してできたもの。」とありました。
◆中国美術
展示品は、北宋の皇帝・徽宗《五色鸚鵡図巻》を始め、陳容《九龍図巻》、周季常の五百羅漢図2幅など北宋・南宋の絵画。五百羅漢図の解説には「明治27年(1894)京都・大徳寺は五百羅漢図(全百幅)の一部をボストン美術館に貸し出し、その十幅がボストン美術館の所有となる。」と、書いてありました。
◆日本美術
 江戸時代の工芸、絵画を展示。チラシでは「170年ぶりの修理を経た巨大涅槃図、初の里帰り!」というキャッチコピーの英一蝶《涅槃図》始め、曽我蕭白《飲中八仙図》や喜多川歌麿《三味線を弾く美人図》を紹介しています。この外、岸駒、呉春など五人の絵師共作による二曲一双の屏風や与謝蕪村の屏風も見応えがあります。
◆フランス美術
「ボストン美術館のミスター&ミセス、そろって登場!」というキャッチコピーのゴッホ《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》と《子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人》を目指して4階へ。ミレー《洋梨》には「3点しか知られていないミレーによる静物画の一つ」、セザンヌ《卓上の果物と水差し》には「スポルディングのお気に入り」という解説がありました。モネの絵画4点は、どれも見逃せません。
◆アメリカ美術
展示室に入ると正面のパネルにオキーフ《グレーの上のカラー・リリー》。パネルの裏側には同じ作者の《赤い木、黄色い空》。どちらも具象画だけれど抽象画にも見える作品です。
◆版画・写真
 奥まったところに展示しているので素通りするところでした。写真は、さらに奥の部屋で、現代美術の《静物》(果物がカビに侵され、やがて崩れていく動画)と一緒に展示。
◆現代美術
展示作品はアンディ・ウォーホルや村上隆などの外、黒人の肖像画も。この作者=ケヒンデ・ワイリーについては、ネットのニュースが「オバマ大統領を描いた肖像画が2018年2月12日にスミソニアン博物館・国立肖像画美術館でお披露目された。」と報じていました。
                            Ron.

名古屋市博物館 レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展 ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

名古屋市博物館で開催中のレオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展(以下、「本展」)鑑賞の名古屋市美術館協力会・ミニツアーに参加しました。参加者は19名。当日は横尾学芸員(以下「横尾さん」)の解説を聴いた後、自由観覧となりました。

◆横尾さんの解説(あらまし)
本展の主題
 本展は、未完成の大壁画「アンギアーリの戦い」を主題とした展覧会。主題の一つは《ターヴォラ・ドーリア》を手掛かりに、ダ・ヴィンチがどんな壁画を描こうとしたのかを探ること。もう一つは、ダ・ヴィンチが「アンギアーリの戦い」で成し遂げた絵画の革命。「ダ・ヴィンチ以前」と「以後」を比較して、その後の絵画に与えた影響を明らかにすることです。

第1章 歴史的背景「アンギアーリの戦い」とフィレンツェ共和国
 1500年頃、メディチ家がフィレンツェ共和国(以下、「フィレンツェ」)から追放され修道士のサヴォナローラが実権を握るが、サヴォナローラもローマ教皇から破門され、ピエロ・ソディリーニが国家主席となる。この時期、イタリアはローマ教皇領、ナポリ王国、ヴェネツィア共和国、ミラノ公国など幾つもの国に分かれており、フィレンツェは対外的な危機状況にあった。
 フィレンツェの書記官マキャヴェッリは外交に奔走するとともに、徴兵制を採用するなど「強いフィレンツェ」への立て直しを進めていた。そして「強い国をつくる」という思いを鼓舞するため、過去にフィレンツェが輝かしい勝利をあげた「アンギアーリの戦い」と「カッシーナの戦い」の壁画をシニョーリア宮殿大評議会広間(現在のヴェッキオ宮殿五百人大広間)に掲げようとした。

第2章 失われた傑作、二大巨匠の幻の競演
 「アンギアーリの戦い」の制作は当時50歳代のダ・ヴィンチに、「カッシーナの戦い」の制作は当時20歳代のミケランジェロに依頼された。しかし、ダ・ヴィンチは「アンギアーリの戦い」の彩色の途中で制作を中断し、ミラノに向かった。壁画はしばらくの間未完のまま放置され、多くの画家が模写をした。ミケランジェロは原寸大の下絵を描いた段階でローマ教皇に招聘されたため、壁画を描いていない。
 第2章で展示の《ターヴォラ・ドーリア》は「ドーリア家の板絵」という意味、16世紀前半の作品。ダ・ヴィンチの構想を伝える最良の模写で、軍旗争奪の場面を描いたもの。当時の戦争は「相手の軍旗をとったほうが勝ち」というもので、軍旗争奪は壁画の中心となる場面。
 絵を見ると人馬が渦のような動きをしており、馬のしっぽなどの細部にも渦がある。本展では立体復元模型も展示している。ダ・ヴィンチも粘土の模型を造って、構図を研究したようだ。
 一方、「カッシーナの戦い」の下絵には、フィレンツェ軍の兵士が水浴びをしているところを敵軍に襲われた場面が描かれている。いわば「変化球」だが、ミケランジェロは男性の裸体像を描きたかったようだ。裸体像は、システィーナ礼拝堂の祭壇画《最後の審判》にもつながる。

第3章 視覚革命「アンギアーリの戦い」によるバロック時代への遺産
 ダ・ヴィンチ以前の戦争画は、装飾的で華麗だが激しい戦闘の場面は描いていない。
 15世紀に戦われた「アンギアーリの戦い」の実態は、死者1名。当時は、傭兵同士の「力の見せ合い」が中心で、「のどかな戦争」であった。しかし、16世紀になると各国は殺し合いで領土を広げるようになる。ダ・ヴィンチが見たのも血なまぐさい戦争。ダ・ヴィンチは「アンギアーリの戦い」で、自分の見たリアルな戦争を描いた。ダ・ヴィンチ以降、バロック時代の戦争画ではこれがスタンダードとなる。「時代を変えた」というのが、ダ・ヴィンチの凄さ。

幕間 優美なるレオナルド
 戦争の絵ばかりだと暗くなるので、ダ・ヴィンチの美人画(模写)も展示しています。

質疑応答
 解説終了後、「2015年から2016年にかけて、東京富士美術館、京都文化博物館、宮城県美術館と巡回した展覧会と本展は同じ名前ですが、どういう関係ですか。」という質問がありました。
横尾学芸員の答えは、「同じものです。前回の巡回から1年ほど期間を空けて、再度、巡回を始めたのが本展。ただ、展示作品は大分ちがっています。なお、関係者は前回の図録を第1シーズン、今回の図録を完全版と呼んでいます。本展は「アンギアーリの戦い」に関する研究成果の発表という側面もあるので、是非、完全版の図録を買ってください。」と、いうものでした。

◆自由観覧
第1章
 会場の入口には、ミケランジェロ《ダヴィデの頭部(石膏模造)》が展示されています。間近で見るダヴィデの頭部には迫力があります。《シニョーリア広場におけるサヴォナローラの処刑》は火炙りの様子を描いたもの。失脚した権力者の末路は哀れなものです。《シニョーリア広場での「敬意の祝祭」》には、ミケランジェロ《ダヴィデ像》が描かれています。《ビュドナの戦い》は、横尾さんの解説どおり、装飾的ですが迫力には欠けていました。

第2章
 本展の目玉《ターヴォラ・ドーリア》(《アンギアーリの戦い》の軍旗争奪場面)では、白馬が2頭、茶色の馬が2頭、馬に乗っている人間が4人、地面で戦っている人間が3人いることまでは分かります。しかし、未完成の壁画をそのまま模写しているので彩色してない部分があり、細部は、よくわかりません。しかし、「未完成部分を想像力で補った」模写や東京富士美術館所蔵《ターヴォラ・ドーリア》の立体復元彫刻の展示もあるので、大丈夫。特に立体復元彫刻は、水平方向360度だけでなく真上からも見ることが出来るので、横尾さんの解説にあった「渦巻いている」様子がよくわかります。
 第2展示室に向かう途中の通路にはパネルによる「アンギアーリの戦い」の解説があり、ダ・ヴィンチの全体構想では右から順に、①フィレンツェの援軍がテヴェレ川に架かる橋に到着した場面、②軍旗争奪戦、③敗走するミラノ軍を描く予定だったようです。

第3章、幕間および同時開催の「天才 レオナルド」
 ピーテル・パウル・ルーベンスに帰属《アンギアーリの戦い》は、ダ・ヴィンチの作品をもとにした作品ですが、バロック時代らしく《ターヴォラ・ドーリア》よりもハイライトと暗部との明暗の差が大きく、ドラマチックな構図になっています。《キモンの戦い》のタピスリーも展示されていました。第3章に続いて、《レダと白鳥》等の美人画の外、はばたき飛行機などの展示もあります。

◆最後に
 横尾さんが「研究成果の発表という側面もある。」と話していたように文書資料の展示もあり、絵画を鑑賞するだけでなく「勉強もできる展覧会」でした。
 Ron.

卒展、修了展(東京藝大)(その3)

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

燃やせないもの

燃やせないもの


 展示室の入り口から眺めたときは、洗ったシャツがたくさん干してあるように見えた。近寄ると大勢の観客が作品を指さして、ガヤガヤと話をしていた。何を騒いでいるのだろう?と思って近寄ると、床に白っぽい破片と粉が散らばっているのが見えた。

 「?」と思って眺めていると、わずかに揺れるシャツの揺れ方が何やら変なことに気がついた。裾の方が揺れるのではなく、まるでベニヤ板をぶら下げたようにシャツ全体が揺れていた。シワの形も変わらない。さらに「?」と思って、キャプションを読むと、素材は「陶」となっていた。

 ようやく他の観客がざわめいていた理由がわかった。この作品は「だまし絵」になっていて、みごとにひっかかってしまったわけだ。

 その他の会場にも、美麗な絵画や彫刻が多数展示されていたが、紹介したように普段美術館ではお目にかかれなさそうな作品の方が印象に残った。

 愛知県の芸術系学校でも、今月、来月と卒業・修了作品展が行われる。今年は栄の芸術文化センターギャラリーではなく、各学校が展示会場になっているようだ。好奇心を刺激してくれる作品を見つけに、ぶらりと出かけてみてはどうだろう。

杉山博之

卒展、修了展(東京藝大)(その2)

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members

「park」 長谷川博子

「park」 長谷川博子 卒展、修了展(東京藝大)

 東京藝術大学美術館の中の作品を見終え、中庭に出るとそこにもかなりの雪が残っていた。中庭にも数点の作品が設置されており、とりわけ目を引いたのが透明なビニールのテントの作品だった。
周りにグリーンを主とした布を幟のように張りめぐらし、さながら温室のようだ。入口は開けっ放しだが、中に入ると以外に暖かく、寒さからの避難先として他の鑑賞者にも好評だった。

 テントの中には様々な制作手法による衣装が多数、ぶらさがっていた。手芸を趣味とする人には、相当に興味深い展示なのだろう。あるものは着られそうであり、あるものは着心地の想像もつかないのだが。テントの中から、ぼんやりと中庭を眺めているうちに、気分が落ち着いてきた。

「park」 長谷川博子 卒展、修了展(東京藝大)

 残りの作品を見るためにテントを出て、歩きながらふと思ったのだが、この作品のテントは衣装をかけておくためのクローゼットのような装置ではなく、衣装とセットの空間として、中に入る人を包み込むように提示されていたのだろう。
例えるなら、テント、幟、衣装は、ファミレスのキッズランチのように、彩の楽しいワンプレート全体を楽しむ、そんな見方がちょうどいいのだろう。

 今後、この作家は、いわゆる美術の領域よりも、身近な生活の領域で心地よい作品を展開していくのかもしれない。
そんな予感のする作品だった。

(その3に続く)

杉山博之