2017春の美術館見学ツアー 神戸

カテゴリ:アートツアー 投稿者:editor


 5月21日(日)に日帰りの美術館見学ツアーに参加しました。今回は神戸市博物館(以下「市博」)の「遥かなるルネサンス」と兵庫県立美術館(以下「県美」)の「ベルギー 奇想の系譜」(以下「ベルギー展」)を見学。参加者は27名。快晴に恵まれ、バスは午前7時30分に名古屋市美術館(以下「市美」)から名古屋駅経由で神戸市を目指して出発しました。
◆行きのバス:今年度の美術展の見どころ等
 今回のツアーから、市美の案内役は保崎裕徳学芸係長(以下「保崎さん」)に交代。行きのバスでは保崎さんから交代の挨拶を兼ねて、今年度の美術展の見どころについての話と、ツアーで見学する展覧会の簡単な解説がありました。
先ず、今年度の美術展の見どころは、①フランドル絵画の名品、②仏像、③アルチンボルドの3つ。うち、①フランドル絵画は国立国際美術館(7/18~10/15)の「ブリューゲル『バベルの塔』展」←東京都美術館は(~7/2)。②仏像は大阪市美術館「木×仏像(きとぶつぞう)」展(~6/4)、奈良国立美術館「快慶」(~6/4)。秋には東京国立博物館「運慶」(9/26~11/26)、京都国立博物館「特別展覧会 国宝」(10/3~11/26)。③アルチンボルドは国立西洋美術館に四季4作が揃う(6/20~9/24)ほか、「ルドルフ2世 驚異の世界展」が福岡市博物館(11/3~12/24)、Bunkamura(2018.1/6~3/11)、佐川美術館(2018.3/21~5/27)で開催。
次に、展覧会の解説ですが、市博の「遥かなるルネサンス」というタイトル、展示している作品は、「ルネサンス」と「バロック」に挟まれた「マニエリスム」の時代に属するので、西洋美術史的には「遥かなるマニエリスム」が正しい。しかし、それでは人が呼べないから「遥かなるルネサンス」にしたのだろう。展覧会企画者の気持ちは良くわかる。また、「天正遣欧少年使節」という副題だとメインヴィジュアルは2014年発見のドメニコ・ティントレット《伊東マンショの肖像》になるはずだが、実際は、マニエリスムを代表する作家ブロンスィーノの《ビア・デ・メディチの肖像》。私の一押しも同じ。この作品を日本で鑑賞出来るのは奇跡。外にはヤコボ・ティントレット《レダと白鳥》も見逃せない。とのお話でした。
保崎さんの前説に加えて、協力会員のボギーさんから提供された「天正遣欧少年使節」と「小磯良平《斉唱》」のDVDも鑑賞。ボギーさんのおかげで、予習は万全です。

神戸市立博物館

神戸市立博物館


◆市博:遥かなるルネサンス 天正遣欧少年使節がたどったイタリア
 当日は、「神戸まつり」の最終日。市博の入口は「神戸まつり」の目玉・サンバ・パレード会場のフラワー・ロードに面しており、バスでは交通規制中のフラワー・ロードへの乗り入れが出来ないため、少し離れたところで下車し、市博には徒歩で移動。100m先にサンバ・チームの姿がチラッと見えますが、パレード見物は諦めざるを得ません。
 展示品で面白かったのは、《日本地図》初版1595年。原題は“IAPONIAE INSVLAE DESCRIPTIO”。京都の位置には”MEACO”の表記。この外、堺”Sacay”、伊勢”Hixe”、美濃”Mino”、駿河”Surunga”などが確認できます。ただ、大阪、名古屋は見当たりません。当時は、どちらも、まだ無かったのだと納得しました。貴石のモザイクで模様を描いた《リヴォルノ港の景観を表したテーブル天板》は色鮮やかで豪華、ちょっと触っても傷がつきそうで怖くなる天板です。
 天正遣欧少年使節の正使・伊東マンショと舞踏会で踊ったと伝えられる、トスカーナ大公妃《ビアンカ・カペッロの肖像》は2点。一方は肉食系、一方は清楚、明らかに違いますが制作した工房はどちらも同じ。この差は責任者の感性によるのでしょうか。
 保崎さんお勧めの《ビア・デ・メディチの肖像》は、美しく気品があります。手には5歳の感じが出ていました。(展覧会のHPによれば、この作品は5歳で病死したビアの死後に描かれたもので日本初公開)《レダと白鳥》も納得です。保崎さんによれば《伊東マンショの肖像》も「顔と襟の描写はさすが」とのことでした。

蔵のような外観のお食事処

蔵のような外観のお食事処


◆昼食:神戸 酒心館 酒蔵
 昼食は、その名のとおり「酒蔵」のような場所で頂きました。天井板が無く太い梁がむき出し。出てきた料理は、野菜中心のヘルシーなもの。動物性タンパクは、鮭の切り身の塩焼きと茶碗蒸し。茶碗蒸しの具にサイコロ状の餅が入っていたので、「お餅が余った時にはサイコロ状に切り分け、大きめの器で茶碗蒸しにして皆で食べると美味しいのよ。」という会話で盛り上がりました。
中はこんな感じです

中はこんな感じです


お食事

お食事


◆県美:ベルギー展と常設展の概要解説
 行きのバスで保崎さんは、この展覧会について「“奇想”は、Bunkamuraの好きな企画。“だまし絵”も同じ発想だった。チラシのメインヴィジュアル・ヒエロニムス・ボス工房《トゥヌグダルスの幻視》について言うと、ボス自ら描いた作品は40点余り、そのうち油彩は二十数点しかない。《トゥヌグダルスの幻視》がボス自身の制作なら大発見。」とのお話でした。
先ず、1階の《トゥヌグダルスの幻視》の巨大複製画の前に集合。県美の西田学芸員の解説を聞いてから、展覧会の鑑賞が始まりました。なお、解説の主な内容は以下の通りです。
レクチャしてくださった、兵庫県立美、西田さん

レクチャしてくださった、兵庫県立美、西田さん


《トゥヌグダルスの幻視》の画面左下に描かれているのは、天使と主人公のトゥヌグダルス。描かれているのは、キリスト教の七つの大罪・傲慢、嫉妬、貪欲、怠惰、大食、激怒、邪淫と、それに対する懲罰。首を切り落とすなど残酷な表現がありますが、戦争で殺戮が行われた時代の制作であり、現実世界の反映です。また、この複製画には、マグネット板で出来た“吹き出し”を貼ることが出来ます。“吹き出し”にセリフを書いて登場人物に会話させたり、自分が絵の中に入ったりして遊べます。写真撮影もO.K.で、人気スポットです。
企画展の会場は3階ですが、1階・2階では常設展を開催中。2階は所蔵作品による特集・“「リアル」からの創造/脱却”を開催しています。常設展の特集を宣伝用のパネルは、澤田知子《ID400》の一部を使ったもので、作家本人がいろいろな扮装をして証明写真機で撮影した写真を並べています。展示室には、顔が4つ写った証明写真を100枚貼ったパネルを4点展示。面白い作品が並んでいるので時間があれば是非、常設展を見てください。
とのお話でした。急なお願いにも関わらず、西田学芸員は快く解説を引き受けてくださいました。改めて、お礼を申し上げます。ありがとうございました。
◆ベルギー展:第1章 15-17世紀のフランドル美術
 ヒエロニムス・ボスと彼の模倣者の作品(15世紀)、「第二のボス」と言われたブリューゲルの原画による銅版画(16世紀)、ルーベンスの原画による銅版画(17世紀)が並んでいます。ボスが描いたユーモラスな怪物は絶大な人気を得ていたようで、同時代の模倣者やブリューゲルにもボスのキャラクターが引き継がれています。
 会場では、若い男女が目立ち、ブリューゲル原画の銅版画の前で、「《大食》というのは絵にしやすいけど、《傲慢》や《嫉妬》は予備知識が無いと分からないね。何で、鏡や孔雀が傲慢を表すの?」などと、会話しています。突っ込みどころ満載の作品ばかりなので、会話が途切れません。デートには最適ですが、渋滞の列は長くなるばかり。時間内で見終わるためには列を離れて入場者の頭越しに作品を鑑賞するしかないと、覚悟を決めました。
 展示室の一角では《大きな魚は小さな魚を食う》など、ブリューゲル作品のアニメーション映像を展示。大きな魚の腹から小魚が飛び出る様子や空飛ぶ魚、歩く魚を見ていたら、残り時間が、ますます減っていきました。
◆ベルギー展:第2章 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派・表現主義
 最初に出会うのが、フェリシアン・ロップスの《舞踏会の死神》。顔が骸骨で、男女の区別がつきませんが、足元はパンプス。なので、女性ですね。教会への風刺でしょうか、気味の悪い作品です。目隠しをした裸婦が豚を連れて、彫刻、音楽、詩、絵画と書かれたレリーフの上を歩く《娼婦政治家 Pornocrates》は、思わず二度見してしまいます。
彫刻を撮影したクノップフの一連の作品を見ていると、不思議な気分になります。アンソールの作品はシニカルで、ヴァレリウス・ド・サードレール《フランドルの雪》は、人物がいないブリューゲル《雪中の狩人》のようでした。
◆ベルギー展:第3章 20世紀のシュルレアリスムから現代まで
 午後3時からレオ・コーベルス《ティンパニー》が動くというので駆け付けると、既に10人以上が待機。開始時刻が来たので、どうなるか見ていると、口に絵筆をくわえて、ティンパニーの上で逆さ吊りにされた骸骨が、その場で上下してティンパニーの演奏を始めました。連打を期待していたのですが、3回ほど叩くとしばらく休むという緩慢な動き。「こんなものか。」と、直ぐ席を立ちましたが、保崎さんに聞くと、その後、人の出入りが多くなったら連打を始めたそうです。センサーで人の流れを感知し、骸骨を動かしていたようです。
この外、デルボーとマグリットの作品や、捻じ曲げられたキリストの磔刑像を伸ばして繋いだ・ウィム・デルヴォワ《プレッツェル》、大きな頭を支えることができない人間のブロンズ像・トマス・ルルイ《生き残るには脳が足らない》などが印象的でした。
◆常設展:2階の小磯良平記念室・金山平三記念室など
 ボギーさんの案内で、小磯良平の《斉唱》と《T嬢の像》を鑑賞。《斉唱》のモデルは、小磯良平が洋画同好会の講師を務めていた、キリスト教系の松陰高等女学校の女生徒。(制服は今も同じです)DVDは「描かれた音楽」と、この絵を解説していましたが、全員が裸足で、視線はバラバラ、どの女生徒も背丈や顔が同じなど、見れば見るほど不思議な作品です。
 隣は金山平三記念室で風景画ばかりですが、画面のターコイズ・ブルーが綺麗です。また、常設展示室6の阿部合成《見送る人々》は、北川民次のような画風でした。
◆常設展:「リアル」からの創造/脱却
 森村泰昌《肖像(九つの顔)習作》は、顔を撮った九つの写真。保崎さんは「元ネタは、レンブラントの《テュルプ博士の解剖学講義》ですね。仰向きは解剖されるご遺体。」などと解説してくれました。《セルフポートレート 女優/ビビアン・リーとしての私》には笑ってしまいました。千円札の夏目漱石が森村泰昌の顔になっている《肖像、経済》は、赤瀬川原平へのオマージュでしょうか。赤瀬川原平といえば、高松次郎の作品もありました。
 見学時間2時間15分と、余裕があったはずなのに集合時刻間際。あとは駆け足です。
兵庫県立美術館

兵庫県立美術館


さわやかな風にふかれて

さわやかな風にふかれて


◆帰路
 摩耶ICから阪神高速道路に入ると渋滞でノロノロ運転。とはいえ、西宮JCTで名神高速道路に入ってからは順調。東名阪自動車道の亀山JCT・四日市IC間が渋滞というので、土山SAまでノンストップ。土山SAでは、お土産と渋滞時の食糧を調達。最悪1時間の遅れは覚悟していましたが、終わってみれば予定時刻よりも15分ほど早い午後7時34分に名古屋駅(桜通り)に到着。ツアーを堪能して全員解散。運転手さん、ガイドさん、添乗員さん、旅行担当の松本さん、ありがとうございました。最後に、参加された皆さま、お疲れさまでした。
Ron.

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