「永青文庫展」後期展示作品のギャラリー・トーク

カテゴリ:協力会ギャラリートーク 投稿者:editor


名古屋市美術館で開催中の「永青文庫 日本画の名品」が2月7日から後期展示になったので、名古屋市美術館の保崎学芸員(以下「保崎さん」)に無理なお願いをして、後期展示作品のギャラリー・トークも開催されることとなりました。急遽の決定で周知期間が短かったにも関わらず、参加者は47名。1月15日のギャラリー・トークの参加者48人に迫る人数でした。
午後2時からの解説会に引き続いてのダブルヘッダーでしたが保崎さんは元気で、トークにも熱が入っていました。90分にわたって楽しく解説を聴いた後、参加者一同による保崎さんに対する感謝の拍手で、ギャラリー・トークは「お開き」。
◆後期展示の作品
 後期の展示となったのは10作品。解説のあった順に並べると、以下の通りです。
寺崎廣業(てらさき・こうぎょう)《月夜山水(げつやさんすい)》、横山大観《野の花》《柿紅葉(かきもみじ)》《山窓無月(さんそうむげつ)》、菱田春草《六歌仙(ろっかせん)》《黒き猫》、小林古径《髪》、堅山南風(かたやま・なんぷう)《霜月頃(しもつきころ)》、上村松園《月影(つきかげ)》、松岡映丘(まつおか・えいきゅう)《室君(むろぎみ)》
◆後期の主役は《黒き猫》………
保崎さんによれば、「前期の主役は菱田春草の《落葉》、後期の主役は同じ作者の《黒き猫》。それを念頭に置いて作品の配置を考えました。前期は《落葉》の枯れ葉と被らないよう、横山大観《柿紅葉》を後期に回し、同じ作者の《雲去来(くもきょらい)》を展示。紅葉つながりで、堅山南風《霜月頃》も後期展示となりました。その結果、『紅葉があるので、後期の方が華やか』という声が聞かれます。意図した訳ではありませんが、確かに声のとおりですね。」とのことでした。
後期の主役《黒猫》。一幅の掛け軸ですから、六曲一双の屏風《落葉》に比べると遥かにちっちゃいですが、迫力は十分。黒のぼかしだけで猫の身体つきがわかるという描写は、さすがです。
保崎さんは「焼き芋屋からネコを借りてきて、五日間で描いた。ネコがじっとしていないので苦労したようだ。展覧会で評判となり、注文に応じて何点も黒猫の絵を描いている。それらの作品を見ると、このネコは柏の木から地面に跳び降り、逃げて行ったらしい。」とも解説。
◆クールな描写の《髪》
《黒猫》の隣は、同じく重要文化財の小林古径《髪》。保崎さんによれば「線描中心のクールな描き方をしている、線描の美しさに目が行くようになった昭和初期の日本画を代表する作品。左側の半裸の女性は伝統的な女性美、腰巻の青緑色が爽やか。右の女性は妹とも女中ともいわれるが当世風のキリッとした姿。川端龍子は、この作品を『隙がない』と評価。また、落款が無いので『未完成では?』という声もあるが、落款が無いのは『落款に失敗して作品を台無しにすることを恐れたのではないか』という声もある。」とのことでした。
◆上村松園と鏑木清方、美人画の競演
上村松園《月影》とは2013年の「上村松園展」以来、四年ぶりの再会。保崎さんも懐かしそうに解説してくれました。2階に展示の鏑木清方《花吹雪》と同じ文化文政頃の風俗、母・若い娘・幼女という組み合わせも同じであり、《花吹雪》についての解説もありました。
◆最後に
今回のように会期の途中で主要作品の入れ替えがあるときは、名古屋市美術館には世話を掛けますが、後期にもギャラリー・トークがあると良いですね。 Ron.

保崎学芸員、2度の講演ありがとうございました!

保崎学芸員、2度の講演ありがとうございました!

感情を入れる器 エリザベス ペイトン展

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

 エリザベス ペイトン展のギャラリートークに参加した。
作品リストによれば、この展覧会はエリザベス ペイトンの国内初の個展。42点の作品は小品が多く、こじんまりとした展示室や建物によく似合っていた。

 参加者は15-20名ほど。展示室が狭いので、移動の際にぶつかりそうだ。ギャラリートークは30分ほど。狭い展示室をテンポよく進む。印象的だったのが、展覧会担当者の作家、作品への思い入れ。毎朝、作品すべてを点検しながら一点ずつ「おはよう!」と声をかけ、夕方、展示室を閉める際には「おやすみ!」と声をかけるそうだ。

 作家は巨大化、抽象化する現代美術の傾向とは異なり、作品を「感情を入れる器」と考え、対象をとても親密な距離感で描いているそうだ。確かに、作品が小さいので、茶器のように、両手で包むようにして鑑賞することもできそうだ。最初、小さく、あっさりとした印象だった作品が、トークを聞いた後では、とても生き生きと見えてきた。

 そういえば、名古屋市美で開催中の「河村るみ展」でも、同様の体験をした。
初めてパフォーマンスを見たときは、映像の技術的な面に興味をひかれたが、アーティストトークを聞き、パフォーマンスで使われる氷と、それが手の平で解けて水となり、届く先を知った後では、パフォーマンスが全然別のものに見えた。
 ことわざに「百聞は一見に如かず」というけれど、「人の話をよく聞く」ことも同様に大切ということを再認識。

杉山 博之

エリザベス ペイトン :Still life 静/生
 原美術館 2017年5月7日まで

河村るみ 介-生と死のあいだ
 名古屋市美術館 2017年2月26日まで

とある美術館にて

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

「えー、入場料高いなぁ」
「これで単位くれなかったら、もう美術館なんか行ってやんないから!」

 良く晴れた休日。とある美術館の入り口でアニメコスプレと思われる銀髪、金髪、黒の和服、腰に刀(?)の一団と遭遇した。10名ほどの団体らしく、少し離れたところで、普通に洋服の女性が帰りの集合時間、集合場所を大きめの声で説明していた。内容からすると芸術系大学の課外授業のようだ。せっかく来たのだから、展覧会と庭園を楽しんでもらいたいと思いつつ、彼らを追い越し、館内へ。

 しばらく静かに鑑賞していたのだが、先ほどの学生たちが追い付いてきたらしく、後ろの方が賑やかになってきた。聞こえてきた会話からすると、この展覧会はレポートの課題になっていること、その採点はかなり厳しいこと、展覧会に来るのは半年ぶりらしいことがわかった。その他にも、アルバイトのシフトが忙しいこと、近々の旅行の話題と一緒に冒頭のセリフが聞こえてきた。5分くらいで彼らは展示室から出ていき、静かになった室内でふと思い出したのが、昨年のあいちトリエンナーレでの出来事だ。

 その時も、観客として来場した作家や、若手の出品作家から「最近の展覧会は入場料が高い」、「入場料が高く、気になる展覧会があっても、なかなか観に行けない」という悩みを聞いた。確かに、2人で出かければ、入場料、交通費、ランチ代で5千~1万円くらいの出費になるわけで、安くはないかも(?)と思ったものだ。

アニメコスプレの彼らは、無事にレポートを提出し、単位をもらえるだろうか?
展覧会の入場料がもっと高くなるとしたら、個人的に払える限界は?
そもそも入場料が千円を超えたのは、いつ頃?
美術館のカフェに行列する人々を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えた。

杉山 博之

河村るみさんをお招きした「作家を囲む会」のことなど

カテゴリ:作家を囲む会 投稿者:editor
河村るみさんをお迎えして

河村るみさんをお迎えして

 現在、名古屋市美術館地下1階の常設展示室3で開催中の「介(かい) - 生と死のあいだ」でインスタレーションとパフォーマンスを発表している作家、河村るみさんをお招きした「作家を囲む会」が2月5日(日)午後5時から、名古屋市美術館1階 ”Sugiura Coffee” で開催されました。当日のゲストは河村さんと、お友達3名、市美の笠木学芸員の5名。協力会の会員は18名。気がついたら、2時間が過ぎていました。河村さん始めゲストの皆様ありがとうございました。

簡単に、自己紹介タイムです

簡単に、自己紹介タイムです

◆河村さんのお友達について
 お友達は、河村さんが活動している共同アトリエAMR(art media room)(長者町トランジットビル4階)の作家・浅井雅弘さん、デザイナーの山田梨紗さん、京都在住の作家・山元ゆり子さんです。河村さんから頂いたカード ”AMR MKY 2016” に書かれていたurl http://artmediaroom.jimdo.com/ にアクセスしたら、AMRのメンバーの写真や経歴などがアップされていました。

るみさんとお仲間、笠木学芸員

るみさんとお仲間、笠木学芸員




カフェのすぎうらさんからケーキの差し入れも!見よこの笑顔

カフェのすぎうらさんからケーキの差し入れも!見よこの笑顔


河村さん自らケーキを切り分けてくれました

河村さん自らケーキを切り分けてくれました

◆アーティスト・トークも
当日は、午後2時から常設展示室3で河村さんのアーティスト・トークも開催されました。私は別の予定があって参加できませんでしたが、参加した会員の話では「質疑応答で盛り上がった。」とか。パフォーマンスの話だけでなく、介護の話でも質疑があったようです。(河村さんのパフォーマンスは、お母さんの介護を経て看取った時に感じたことを表現したものだそうです。)

◆会期中は毎日、パフォーマンス
 2月26日(日)までの会期中は、毎日、午後4時から河村さんのパフオーマンスを鑑賞することが出来ます。見に来てくださいね。
 パフォーマンスは、河村さんが常設展示室3に入ってきて丸イスに座り、コップの氷水を飲み、口の中から氷を一つ取り出して右の手の平に受け、その氷が溶けるのを眺め、氷が溶けたら立ち上がって退場するというものです。生身の河村さんだけでなく、その映像が時間も場所も少しずつズレながら3回投影されて、壁面に蓄積されるので、不思議な気持ちになります。丸イスが置いてある場所も毎日少しずつ、向かって右にズレて行きます。なお、当日は「一回りして」最初の位置に戻っていました。
 パフォーマンスの後、観客の一人から「ご本人が登場したのは2番目だったのに、退場は最後だったのはどういう理由ですか。」と質問がありました。答えは「氷が溶けきるまでの時間が、その度に違う。今日は溶けるのに時間がかかったので、最後の退場になった。」とのこと。なるほど、そうだったんですか。
Ron.