秋のツアー箱根 2016

カテゴリ:アートツアー 投稿者:editor

9月24日(土)から25日(日)まで、名古屋市美術館協力会の秋のツアーに参加しました。参加者は31名、全員がツアーを満喫することが出来ました。今回のツアー、目的地が「箱根」だったこともあり、「ツアーの楽しみは、美術鑑賞と観光」だという、きわめて当たり前のことに改めて気付かされました。行程順に書かせていただきます。

旅行に参加したみなさん、ポーラ美術館にて

旅行に参加したみなさん、ポーラ美術館にて


◆箱根町「宮の下」三叉路で渋滞に遭遇するも、予定通りの時刻に到着
 秋雨前線や台風の影響で降り続いていた雨も止み、「よかったね。」と話しながら出発。しかし、無情にも静岡県に入ったあたりから本降り。「雨ニモマケズ」順調に走り続けたものの、最初の目的地、富士屋ホテル前の箱根町「宮の下」三叉路を目の前にして突然停止。見ると、三叉路で車がひしめき合って、なかなか前に進めない状況です。十数分間の我慢。バスを降りてホテルの玄関前で腕時計を見たら、12時。渋滞に遭遇するも、みごと予定通りの到着でした。
◆豊田JCT~浜松いなさJCT 間の新東名開通で時間短縮
静岡SAで配布しているパンフレットには「2016年2月の新東名高道路愛知県区間開通で、豊田JCT~御殿場JCT間の所要時間が約60分短縮」とあります。10年近く前に団体旅行で箱根に行ったときは丸子の丁子屋で昼食でしたから、「1時間の差」は大きいです。助かりました。
なお、東名高速道路の豊田JCT~音羽蒲郡IC間は、現在の暫定3車線を2車線に戻す工事が10月上旬まで実施され、工事完了後は制限速度60㎞/hが100㎞/h に戻るようです。
◆富士屋ホテルで食べたビーフカレー
昼食は、箱根町宮ノ下「富士屋ホテル」のメインダイニングルーム「ザ・フジヤ」でビーフカレー。格天井、欄間、雪洞という日本趣味の、天井高のある広いダイニングルームで庭を見ながらの昼食はクラシックホテルならではのものでした。静かで、落ち着いています。どこからか「コーヒーやサラダは付かないの?」という声が聞こえましたが、後で富士屋ホテルのホームページを見たら、ビーフカレー単品でもサービス料込2,290円+消費税、サラダ、コーヒーなどの付くセットメニューだとサービス料込4,480円+消費税なので「ビーフカレー単品でも大盤振る舞い」だったと納得。「お肉」もたっぷり入っていたし、文句は言えませんね。
天井の装飾も美しい富士屋ホテルにて

天井の装飾も美しい富士屋ホテルにて


確かに値段は高いのですが、お陰で雰囲気を壊す「招かれざる客」などの要素は排除され、いい気持ちで昼食を楽しむ事ができました。今回のツアーでは各美術館でも、この「箱根ブランドに支えられた高価格帯戦略」を目にしました。でも、高いサービス料を払っただけの価値はあります。ホテルを出るとき、「また、あの三叉路を通るのか。」と、暗い気持ちになったのですが、ホテル従業員の交通整理で何の障害もなく「宮の下」の三叉路を抜けることが出来ました。
◆「残念」と思った雨が、思わぬ演出効果を
 ツアー最初の美術館は、観光客に人気の箱根彫刻の森美術館。野外彫刻を広い庭に展示しているのが「売り」ですが、あいにくの雨。バスを降りる前、参加者に聞くと「傘をさしても野外彫刻が見たい。」という参加者は31名中11名。「残念」な気持ちを抱えての入場となりました。
雨の彫刻の森美術館

雨の彫刻の森美術館


「雨なので、2、3点だけ解説します。」との前置きだったのですが、気分が乗って来たのか学芸員さんは30分近く解説して下さいました。何故か?鮮やかな芝生の緑と雨に煙る白い空をバックにした「雨に濡れた野外彫刻」がとても魅力的だったのです。強い日差しも無くて涼しく、傘をさしていても快適に聞けました。私の頭の中には、ジーン・ケリーの「雨に唄えば」が流れていましたね。同行した名古屋市美の山田学芸課長が、この日に見た彫刻について「名古屋市美術館のブログに書きたい。」と話していましたので、そちらもご覧ください。
雨の中でも解説に聞き入る参加者たち

雨の中でも解説に聞き入る参加者たち


◆篠山紀信の写真も
 彫刻の森美術館では「篠山紀信写真展 KISHIN meets ART」と題した特別展も開催されていました。「緑陰ギャラリー」では若林奮、イサム・ノグチ、フランク・ステラなどのアーティストやその仕事場を撮影した複数の写真を結合した「シノラマ」を展示。何の期待も持たず会場に入ったのですが、「シノラマ」の面白さに興奮しました。名古屋市美に収蔵されている作品の作家が多く、親近感が持てました。こんな写真なら、作品と一緒に展示したいですね。
一方、本館ギャラリーでは、篠山紀信が撮影した彫刻の森美術館の野外彫刻の写真を展示していました。最初の展示室には、さっき見てきたばかりの「雨に濡れた彫刻」の写真。同じ彫刻を二度楽しめたことで、とても得した気分になりました。
◆またも「宮の下」三叉路で
 次のポーラ美術館での観覧時間を増やそうと、彫刻の森美術館を予定より20分早く出発したのですが、今度は「宮の下」三叉路のはるか手前で渋滞にはまり、移動時間10分の予定が45分もかかってしまいました。しかし、文句を言う人は誰もいません。きっと、さっきまで見ていた彫刻の森の「雨に濡れた野外彫刻」の余韻に浸っていたので気にならなかったのでしょう。これも「芸術の力」の成せる技ですね。
◆水気たっぷりの森に抱かれたポーラ美術館
 ポーラ美術館に着いたのは午後3時25分でしたが雨が降っているため、夕暮れ時と錯覚するほどの薄暗さ。傘をさして窪地の上に架かる橋を渡り入館。そのまま、地下1階のレクチャールームに向かいました。学芸員の解説は「今月の日照時間は、まだ20分」という話で始まり、「ポーラ美術館のある仙石原は霧が深く、水気の多い土地で、ブナ(橅or山毛欅:樹皮は灰色で滑らか。ドングリは三角錐形で柔らかいトゲのある総苞に包まれる)が多い。ヒメシャラ(姫沙羅:ツバキ科の落葉高木。山中に自生し、庭木にする。樹皮は淡赤黄色で平滑)は、他の土地ではあまり大きくなることはないが、仙石原では巨木になる。美術館と駐車場の間の窪地に自生しているので、帰りに見てほしい。当美術館は原生林に囲まれ、自然との「共生」をコンセプトにしている。館内に居ながら自然の中にいるような気持ちになれます。」と続き、特別展、常設展の解説もありました。
特別展は「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ 境界線への視線」で、見どころは「パリ郊外の“詩情”。絵画と写真により現実を写し、また超えていく、普通の「芸術家」ではない型破りの3人の表現」とのこと。いずれの作家もポーラ美術館の所蔵品を中心に展示しているのは「すごい」と思いますね。先ずは、ルソーの「ヘタウマ」を堪能。フジタ関係の展示は、名古屋市美で今年開催した「藤田展」と来年開催予定の「ランス美術館展」を結ぶようなもので、「乳白色のフジタ」より前の作品と戦後の渡仏後の作品を展示。「藤田展」で見た作品もありました。
名古屋市美の山田さんの話では、アジェの展示は当初予定していなかったようで、展覧会開催が当初予定より遅れたため展示が可能になったとのことです。我々には、それが幸運でした。キャプションを読むと、アジェの写真はフジタも資料として購入していたようです。20世紀初頭のパリの風景、それも「蚤の市」や「くず屋」などの、あまり「芸術的」でない写真が面白いですね。18㎝×24㎝の写真乾板(ちなみにB5サイズは18.2㎝×25.7㎝)を使う木製カメラで撮影したということですから、カメラ、三脚、写真乾板の重さを考えると、撮影はかなりの重労働だったと思います。後で調べると、カメラはレンズボードを上下に動かすことができたということから、建物の線が垂直になっている理由や、画面の上方が弧を描くように切れてその上が黒くなっている写真があった理由がわかりました。納得。
アジェの展示で最初にあったのは、ベレニス・アボットが撮影したアジェのポートレート。調べてみると、彼女はアジェの死後、プリントと写真乾板を購入して世界にアジェを紹介しただけでなく、自身も8インチ×10インチ(20cm×25cm)のネガを使う大型カメラで撮影していたということです。彼女は余程、アジェの写真が気に入っていたのでしょうね。
常設展では、黒田清輝《野辺》、岡田三郎助《あやめの女》、岸田劉生《麗子像》、村山槐多《湖水の女》などの作品を見ることが出来ました。なかでも、里見勝蔵《女》には、「なんじゃ、これは。」と思いました。なお、近代日本画の作品が一つもなかったので、美術館の人に聞いたところ、「今回は展示しておりません。」との回答。これは、残念でしたね
ホテルでの宴会の様子

ホテルでの宴会の様子


◆ホテルの裏手一帯は森に囲まれた別荘地
 宿泊は、仙石原のパレスホテル箱根。着いたときは真っ暗だったので、どんなところにあるかよくわかりませんでしたが、翌朝、朝食に行こうと部屋を出たら、廊下の突当りの窓から、富士山のシルエットが見えるではありませんか。しばらくのあいだ見とれていましたが、その後、雲に隠れてしまいました。9月26日(月)の新聞には「山梨県富士吉田市は25日、富士山の「初雪化粧」を宣言した。(略)昨年より16日早い。気象台は『25日山頂付近が朝から雲に覆われ、冠雪を確認できない。』として発表を見送った。」とあります。帰宅後に検索したら、御殿場でも初雪が見えたようです。あの時、双眼鏡があれば初雪が確認できたかもしれないと思うと、残念。
 朝食後、ホテルの裏手に回ると「庭園公園散歩道入口 →」という看板。矢印の方向に進むと「中央通り」「一番通り」などの看板があり、中央通りを進むと駐車場にいっぱい乗用車が止まっている施設がありました。看板は「花王ファミリーセンター千石」の文字。他にも「キャノン箱根館」「DNP 創発の杜 箱根研修センター2」など、立派な施設が目白押しでした。
また、「見晴通り」という標識があったので進んでいくと、「金太郎岩展望台 →」という看板。木の枝でトンネルのようになっている道を抜けると、やがて空が開け、眼下に芦ノ湖が見えました。下の方から車の走行音が鳴り響き、それまで聞こえていた鳥の声は、もう聞こえません。「晴れて良かったな。」と、深呼吸してからホテルに戻り、帰り支度をしましたが、後の予定がなければ姥子温泉を経由して大涌谷まで行っていたかもしれません。
◆仙石原すすき草原を横目に岡田美術館へ
 出発時、ホテルの玄関前には2台のバス。一台はもちろん協力会、もう一台は前夜の風呂で一緒になったイタリア人の団体さんだったようです。「大人と中学生」くらい体格が違います。
岡田美術館に向かう途中、仙石原すすき草原の横を走っていると、ハイキング姿の若い女性が何人も見えたので、「ここで止まって、しばらく散策したいな。」という声がありました。雨上がりなので、殊の外ススキが綺麗です。早朝だったので、魔の「宮の下」三叉路はあっけなく過ぎ、バスは「箱根マラソン」のコースを軽快に登っていきます。「こんなに急な坂で何人も抜いたとは、柏原竜二や今井正人は、まさに“山の神だ”。」と、感動しました。

◆「最新の美術館はここまでやるのか!」と、びっくり
岡田美術館に着くと、我々がバスを下車する前に岡田美術館の職員が乗車して美術館の概要を説明。「テーマパークでも、ここまではやらないのに。」と、びっくり。しかし、驚くのは、まだ早かったのです。入場すると、「携帯電話は持ち込みできません。ロッカーに入れてください。」という案内。携帯をロッカーに入れて受付に行くと、金属探知機で手荷物検査という空港並みのセキュリティー。「ここまでやるか」と、口をあんぐりした次第です。
今回のお目当ては「生誕300年を祝う 若冲と蕪村 - 江戸時代の画家たち」。目玉は、「若冲展」に出品された「孔雀鳳凰図」。5階ホールまで上がって30分の解説。解説が終わって扉が開くと、庭が見えました。美術館の人の話では「9月になって初めての晴れ」ということで、眩しいくらい緑が映えています。昔は「開化亭」という旅館で、その当時も庭だったそうです。その後、持ち主が変遷し2013年10月に岡田美術館が開館するに至ったとのことでした。
岡田美術館にて

岡田美術館にて


5階は、仏像・仏画の展示。4階は特別展。「江戸時代の画家たち」という副題なので、円山応挙や長沢蘆雪の作品も見ることが出来ました。驚いたのは、立って鑑賞するときに見やすくするように掛け軸専用の展示台があったことです。後方に少し傾けた真っ黒な板に掛け軸を懸け、絵が持ち上がらないよう、絵の四隅に直径7、8ミリぐらいの金属製の丸いボタンのようなものが置いてあります。ピンなのか、別の方法で止めてあるのか、よくわかりませんでしたが、お陰でガラスケースの反射も気にならず、快適に鑑賞することが出来ました。
3階は、絵画・漆芸の展示です。肉筆の浮世絵もありました。2階は仕切りが無く、デパートの陶磁器売り場のような感じですが、ここにお目当ての「孔雀鳳凰図」がありました。人だかりはありましたが、せいぜい10人ほどなので、じっくり鑑賞することが出来ました。1階には、白玉を削り出して造った直径30㎝ほどの《白玉双耳八角花形洗》が展示されていました。器の耳には輪が付いています。どうやって輪を削り出したのかが謎のお宝でした。
ゆったりできる足湯カフェもありました

ゆったりできる足湯カフェもありました


美術館の出口には足湯カフェ。足を湯につけると足の裏を新品に張り替えたようになり、すっかり疲れが取れました。コーヒーやスイーツを注文する時間がなかったのが、唯一の心残りです。
◆世界文化遺産「韮山の反射炉」を見ながらの網焼きバーベキュー
 岡田美術館の見学後、バスは世界文化遺産「韮山の反射炉」の隣の「蔵屋鳴沢」を目指して走りました。車窓には富士山や芦ノ湖、全長400m、日本最長の歩行者用吊橋《三島スカイウォーク》などが次々に現れては、消えていきます。
網焼きバーベキューランチ

網焼きバーベキューランチ


昼食は「蔵屋鳴沢」の網焼きレストランで、韮山反射炉を見ながらの網焼きバーベキュー。牛、豚、鶏に鯵の干物と、とてもボリュームがあり、皆、大満足。300円の入場料を払って反射炉見学をした人もいました。反射炉では、鉄を熔かして大砲を作っていたようです。
◆コンクリート造の本堂に安置された五体の国宝
見学の最後は、伊豆の国市の願成就院。北条政子の父、北条時政が建立した寺院で、阿弥陀如来坐像を始め、平成25年に国宝指定された運慶作の五体の仏像を安置しています。我々が本堂に入るのとほぼ同時に、住職が登場。「法事があって寺に戻るのが遅れたけれど、皆様方のご到着に間に合ったのは、御仏の助け。」という挨拶を皮切りに「この阿弥陀如来は体格が良くて男らしい仏様で、両掌を前に向ける説教印を結んでいるのが特徴。地震で螺髪、鼻、目が損傷し、玉眼ではなくなった。体内から五輪塔型の木札が見つかり、運慶作であることが確認された。現在の本堂は、50年ほど前に再建された。」などの解説がありました。

また、見学後のバスでは、今回参加された藤井さんから阿弥陀如来の仏像などに関する解説があり、知識を深めることが出来ました。藤井さま、ありがとうございました。
◆渋滞なしの復路、関係者の皆様に感謝、感謝です
帰り道でも富士山がよく見えました。新東名高速道路、伊勢湾岸自動車道、名古屋高速道路と乗り継ぎましたが、いずれも順調に走行。帰路で一度も渋滞に遭うことなく、無事到着できたのは久しぶりのことです。参加者は皆、笑顔でバスを後にしました。
ツアーを企画していただいた松本さま、ありがとうございました。これからも、よい企画をお願いします。また、「仕事ですから。」と言われるかもしれませんが、終始安全運転を続けていただいた運転手さま、ありがとうございました。添乗員さん、お疲れ様ありがとうございました。
   Ron.

あいちトリエンナーレ合同鑑賞会

カテゴリ:協力会ギャラリートーク 投稿者:editor

 8月30日火曜日、現在名古屋市内を中心に開催されているあいちトリエンナーレの作品を鑑賞するイベントが開催されました。このイベントは名古屋市美術館協力会と愛知県美術館の友の会が合同で開催した鑑賞会で、午前中は名古屋市美術館を、午後は愛知県美術館の展示を解説付きでまわり、トリエンナーレに参加しているアーティストの作品を1日かけて楽しみました。
 午前中の名古屋市美術館では、トリエンナーレのチーフキュレータである拝戸雅彦氏によるギャラリートークが開催されました。作家の作品の前でひとつひとつレクチャを受け、最後に屋外の作品の解説のあと、全般的なトリエンナーレの説明も受けました。会場は豊橋や岡崎にもありますし、市内では長者町や栄の古い建物のなかなどにもあります。

愛知県美術館で解説してくださった石崎学芸員

愛知県美術館で解説してくださった石崎学芸員


 午後には、愛知県美術館にて石崎学芸員による解説を受けました。愛知県美術館では、ひとつひとつ区切られた小部屋に一人ずつ作家の作品が納められているので、個々に独立しているように感じました(逆に名古屋市美術館では、1つのフロアに3、4人が互いにコミュニケーションを取り合いながら共存しているような印象を受けますが…)

 作品はそれぞれ見た目や音、全体の雰囲気によって様々な印象を与えますが、やはり、作家を知り、作家の表現したいことについてより知識のある学芸員の方の説明があると別の見方も出来て、2倍楽しめますね。
なんとも不思議な作品

なんとも不思議な作品


美しい光る陶器の作品

美しい光る陶器の作品