読書ノート 林 洋子 著「藤田嗣治 手しごとの家」集英社新書ヴィジュアル版 015V

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

6月4日に名古屋市美術館で林洋子さん(美術史家・文化庁芸術文化調査官)の講演会があるので「参考になる本はないか」と地元の図書館に行ったところ、この本に出会いました。写真や図版の多い、206ページのコンパクトな本です。主に、パリ郊外に残る藤田晩年の旧宅に残る、彼の手づくりの品や遺愛の品をたどるものですが、現在開催中の「藤田嗣治」展(以下、「藤田展」といいます)を鑑賞するヒントもあります。
◆メゾン=アトリエ・フジタ
この本が紹介する藤田の「最晩年の家」メゾン=アトリエ・フジタは、1991年に君代夫人が地元のエソンヌ県に寄贈。その後、改修を経て2000年9月に一般公開されたものです。藤田展の第6章に展示の《礼拝》画面左上には、この「最晩年の家」が描かれています。
◆建築物のマケット(模型)
 藤田展の第5章の《室内》は、建物のマケット(模型)を描いたものですが、この本には《室内》のモデルとなった「1948 NOTRE MAISON PAR FOUJITA」と書かれたマケットの写真と、土門拳が撮影した、アトリエでのマケットと藤田の写真が掲載されています。
◆「裁縫道具」の絵が展示されている理由
 藤田展の第3章に《裁縫道具のある風景》が展示されています。「なぜ、裁縫道具?」と思ったのですが、この本に「(藤田が着ているシャツ)の多くは自分でミシンや手で縫いあげたものでした。小柄な彼がサイズにあった市販品をパリで見つけにくかったことも理由のひとつでしょうが、彼は確実に、「縫う」「布に関わる」という行為に魅せられていました。」と書いてあるのを読んで、納得。映画「FOUJITA」でも、ミシンを使っているシーンがありましたね。
◆大工仕事
 昨年、岐阜県美で開催された「小さな藤田嗣治展」では手製の額に収められた小さな絵が多数展示されていましたが、この本によれば、額の自作が本格化するのは「30年代半ばに日本に定住して以降のこと」で、「手づくり好きが、それを加速しました。」、「《美しいスペイン女》の額にも1949年の年記とサインがあり、人物と動物の素朴なレリーフの間にハート形が連なっています。」とのことです。
◆平野コレクション
 藤田展の第3章には「公益財団法人平野政吉美術財団」所蔵の作品が多数展示されていますが、この本には「秋田の素封家平野政吉は、1929年の藤田の東京でのふたつの個展と帝展に魅せられ、30年代の藤田の最大のコレクター兼支援者となりました。」と書いてあります。
なお、藤田展の第4章に展示されている《東京の私のアトリエ》と《私の画室》に描かれた、茶釜を染め抜いた藍染ののれんは、映画「FOUJITA」にも登場していました。
◆筆まめな藤田
藤田展の第2章には、インク壺とペン、吸い取り紙、パイプを描いた《インク壺の静物》が展示されており、第5章の《カフェ(習作)》にもインク壺とペンが描かれていますが、この本には、「(藤田は筆まめで、特にニューヨーク滞在中は)数多くの絵画と、そして手紙と日記を残しています。」と、書いてあります。藤田がインク壺とペンを描いた理由が分かりました。
◆定価など
 「定価 本体1100円+税」とあります。図書館で借りるのもよいでしょうね。    Ron.

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