「美術館の舞台裏 ― 魅せる展覧会をつくるには」 ちくま新書1158

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

 高橋明也(たかはし あきや:1953年 東京生まれ 三菱一号館美術館初代館長)著

 名古屋市美術館協力会の楽しみの一つに、ギャラリートークや美術館見学ツアーなどに参加して、美術館学芸員から展示作品集めの苦労話や展示方法の工夫など展覧会の裏話を聞くことがあります。
 ただ、これらの裏話はあくまでも行事参加の特典(おまけ)であり、裏話をまとめて聞く機会はなかなか無いため、「何かないかな?」と思っていたところ、この本に出会いました。

 「はじめに」に書かれた「はたして、美術館と呼ばれる “ハコ”のなかにはどんな日常が繰り広げられているのか。上から下から右から左から、多面的な切り口で、普段一般の方にあまり馴染みのない美術館、展覧会の裏側をひも解いていきます。この書をきっかけに、美術館、ひいては一枚の名画の見方が変わるようであれば、それほど嬉しいことはありません。」という言葉に惹かれたのですが、期待どおりでした。

 著者の学芸員としての活動歴は35年。国立西洋美術館研究員から始まり、パリのオルセー美術館開館準備室にも在籍、国立西洋美術館学芸課長を経て、2006年に現職へ就任しています。
 「あとがき」に「筑摩書房の編集者から質問を受けながら文章をまとめるやり方をとることにした。」とあるように、「ゴッホの≪アルルの寝室≫は日本のものだった?―松方コレクション」や「日本独自の海外美術展の作り方―美術館と新聞社の深い関係」「盗難事件、まさか日常茶飯事?―コローの名画発見秘話」など、素人でも楽しめる裏話が満載です。

 なお、「素人でも楽しめる」とはいえ、力がこもっているのは学芸員の仕事に触れた「第2章 美術館の仕事、あれやこれや大変です!」です。「3 マネジメント力の重要性」を始め現職の学芸員に向けたメッセージが綴られており、「著者が一番書きたかったのはここかな?」と思いました。
 時間と懐具合に余裕がある方には、一読をお勧めします。ちなみに、この本は本体価格780円(税込842円)です。
                            Ron.

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.