バーネット・ニューマン展

カテゴリ:アートツアー 投稿者:editor

ここは滋賀県MIHO MUSEUM.しだれ桜の並木が続く坂道を歩きながら,美術が大好きな兄貴と、ファッションからワインまで好奇心のかたまりの元気な妹の二人が、おしゃべりをしている.耳を傾けてみよう.

兄[♠]ひさしぶりだね.元気だったかい?
妹[♥]ええ,元気よ.MIHO MUSEUMに行こって誘ってくれて,ありがとう,うれしいわ.
[♠]ここで,バーネット・ニューマン展が開催されているんだ.ニューマンは20世紀アメリカ抽象表現主義を代表する美術家といわれている.
[♥]そうなの.かなり前にロバート・ライマン展(2004年,川村記念美術館)やマーク・ロスコー展(2009年,同)を見たわね.ポロック展も(2011年,愛知県美術館).彼らと同じ頃に活躍したわけ?
[♠]そうだよ.さぁ,作品を見よう.
[♥]何? 冷蔵庫のドアみたいな作品! タテのストライプ,モノクロ,余白たっぷり.絵具が少なくて...
[♠]のっけから辛辣だね,ハハハ.
[♥]だって,何を描いているのかわらないもん.太さの異なる白と黒のストライプがあって,塗り残しのような生キャンバスが14枚.あっ,反対側にもう一枚ある.合計15枚ね.
[♠]ニューマンの作品を読むポイントは二つほどあると思うな.平面性というか,中心性について.もう一つがタイトルの秘密だよ.
[♥]タイトルの秘密ってな~に? 聞きたい,聞きたい.
[♠]タイトルは,14枚連作全体で「十字架の道行き」.副題が,レマ・サバクタニ.これは,なぜ私を見捨てる,というヘブライ語だそうだ.
[♥]キリスト教に準拠した作品なのね.キャプションを読まないと想像できないわね.
[♠]そう,そこに作品名と作家の蜜月があるわけだ.連作として制作途中に,タイトルを付けたらしい.しかし,一般論として抽象画とその作品に付けられた名前の関係性は,観客が必ずしも,制作者の意図に気づくわけではない.ニューマンには,差し迫った製作意欲があったのだろうね.でも,キリスト教の,それも旧約聖書に精通していなければニューマンの意図を理解することができないのだろうか? タイトルを無視して,観賞することはできないのかと問いたいね.視覚的な表現とタイトルは別問題と思ってもよさそうだが.作家が強要する問題だろうか.
[♥]お兄さんが,タイトルの秘密と言ったから,どんなことかと思ったら,抽象作品は「無題 untitled」や「No. XXX」で十分ということ?
[♠]うん.タイトルは恣意的になりすぎる恐れもある.観客がタイトルに触発されることもあるし,反対に誤解することもある.ニューマンはユダヤ人だそうだが,我々日本人には,宗教感覚は理解しにくいね.精神性という逃げの言葉を使いたがるのは二流の評論家だろう(笑い).
[♥]う~ん.あるがままに見てもいいのじゃない.李禹煥の「余白」とは少し違うようだけど.ねぇ,二つ目のポイントは何かしら? 平面性?中心性? 難しい話はいやよ.
[♠]平面作品であることは確かだね.ルネサンス以降,画家は平面という二次元の世界に,いかに三次元(立体)の世界をうまく表現しようとして,いろいろと考えた.その結果,遠近法が定着した.レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」に見られる透視図法,「モナリザ」の空気遠近法,さらに色彩遠近法といわれる技法を駆使して,空間のイリュージョン(幻影)というものと戦った.それを一気に崩したのが20世紀絵画だ.ニューマンの作品には,ストライプ(線条)が一本ないし二本から,どう見ても立体感はない.かえって,両サイドのストライプから,逆にシンメトリー(対称)を感じる.色彩が無いことに起因するのか,奇妙な平面的な感覚が残るね.
[♥]垂直線のシンメトリーや平面の分割だけなら,退屈するわね.研ぎすまされた緊張感を覚えるより,システマティックな...それを防ぐのが筆跡かしら,よくわからないわ.サインが隅にあるのはどうかしら.
[♠]作品(152×198cm)の両辺サイズ比は,黄金比(1/1.62)や白銀比(1/1.41)よりスリムな1/1.30なのだよ.通常のF100号(1/1.25)の一回り,二回り大きい感じかな.特殊な比率もニューマンの意図かな~.
[♥]ストライプが画面を分割しているから,ストライプ自身の幅やその面積も視覚に訴えるのでは?
[♠]そうだね.いろいろと見方はあるだろうね.専門家に任せよう.我々は,自分のモノサシで見ようじゃないか.
[♥]ねぇ,ねぇ,カフェレストランがあるわよ.ゆっくりして行かない? 冷えたシャブリが飲みたいわ.

入倉 則夫(会員)

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