フクリュウ(ラッキードラゴン)

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:blogmember

 名古屋市美で、映画「第五福竜丸」(新藤兼人監督、1959年)を観た。
開催中のベン・シャーン展に関連した上映会で、天気が悪かったが出かけることにした。

 ご存知のように、「第五福竜丸」は1954年3月1日、アメリカ合衆国がビキニ環礁で行った水爆実験に遭遇した遠洋マグロ漁船の名前であり、大量の「死の灰」(放射性降下物)を浴びた船員が死亡するという痛ましい社会的大事件の代名詞でもある。今回上映されたのは、この事件を新藤監督がドキュメンタリードラマにしたもので、モノクロ映像に荒れ気味の音声がニュース映像を見ているような印象だった。

 今回の展覧会の最後の展示室にまとめられている「ラッキードラゴン」シリーズは、ベン・シャーンが「第五福竜丸」事件を契機に制作したものだ。この事件に影響を受けたのはベン・シャーンだけではなく、岡本太郎も「明日の神話」の右下のほうに爆風で吹き飛ばされそうな小さな漁船を描いている。映画のストーリーの詳述はしないが、毎日のように報道される東日本大震災による福島原発事故のニュースと重なるものも感じられ、見ておいて良かったと思った。

 上映会終了後、展示室に戻り、「ラッキードラゴン」シリーズをもう一度よく見てから帰ることにしたが、駅に着くと改札が妙に混雑していて、ホームも大きな買い物袋を抱えた人々であふれていた。アナウンスを注意して聞いてみると事故で電車が止まっていたらしい。これもある意味で遭遇だな、と思いながら電車を待った。家に帰れたのは、いつもの2時間遅れで、あたりは真っ暗だった。

杉山 博之