ゴッホの素描

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor
ゴッホ展図録

ゴッホ展図録

 ここに一冊のゴッホ展の図録があります。2005年夏、オランダのアムステルダムにあるゴッホ美術館で開かれた Van Gogh draughtsman 展(ゴッホの素描展)の図録です。欧州出張の帰路、アムステルダムに立ち寄り、運よくゴッホ美術館を訪ねることができたわけです。
 この企画展は、ニューヨークのメトロポリタン美術館との共同企画で、ゴッホが残した厖大な量の素描に焦点をあてて、油彩画家ゴッホと同様、いやそれ以上の素描家ゴッホの真髄に迫ろうと企図したものでした。ゴッホは、油彩画に着手する前には素描を描いていました。鉛筆だけでなく、ペンや水彩絵具なども用いて、すの目紙(laid paper)や網目漉き紙(wove paper)と呼ばれる紙に描いていたそうです。時には、弟テオへの手紙の片隅に書き添えることもあったようです。初期の農夫を描いたたどたどしい習作、一点透視画法による風景、着彩した美しい作品、晩年の燃え上がるような油彩画の下絵とは思えないほどの習作が、完成された油彩画と併せて、広い会場の別館にゆったりと数多く展示されていた記憶があります。
 さて、今、名古屋市美術館では「没後120年 ゴッホ展-こうして彼はゴッホになった-」が開かれています。副題にあるように、独学のゴッホが勉強家であったこと、模写に勤しみ、先輩画家の技法を貪欲に吸収していった過程に着目して、ゴッホ独自の画風を築いたことを証左しています。彩度の高い原色や補色の特徴ある荒々しい筆致の油彩画スタイルを体得するに至るまでには、多くの素描や技法書の読破といった一途な努力があったことがわかります。
 特に、人物像の素描の足の大きさや形に注目したいと思います。ミレーの模写に始まる一連の農作業風景に登場する農民達の頭、上半身、下半身はややアンバランスですが、足元はしっかりと大地に根付くか如く、大きめに描かれています。また、アルル時代の農村風景には、手早く描いた部分と丁寧に描きこみをした部分が混在しており、これも印象深いと思います。
 本展覧会では、有名な油彩画の「アルルの寝室」、「アイリス」、点描の「自画像」だけでなく、優れた素描画家としてのゴッホの魅力にも目を向けたいと思います。

ゴッホ美術館

ゴッホ美術館

入倉則夫(会員)

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